感情と健康との関係性〜健康習慣を高めるセルフモニタリングを身につけよう〜
こんにちは、健康心理アドバイザーの酒井悠次です。本日も本コラム「健康を科学する」をお読みいただきありがとうございます。
第2回目となる今回のテーマは『感情と健康との関係性について』です。
感情と健康。この二つの関係はとても深く関わっており、感情が健康を作るといっても決して大げさではありません。
なぜかと言うと、心理学や公衆衛生学の研究によって感情が心と身体にどのように影響しているのか、その理解が深まってきたからです。
たとえば、メキシコ系アメリカ人の高齢者を対象に、ポジティブな情動と2年後の健康状態を調査した研究があります。
調査の結果、ポジティブな情動を持つ高齢者は、ポジティブな情動が低い高齢者と比べて、歩行能力が高く、死亡率も低いことが分かりました。
つまり、嬉しさや楽しさ。怒り、緊張や不安。誰しもが持つその感情が私たちの健康に大きく関わり、健康を促進させたり、阻害させたりするわけですね。
ハーバード大学の公衆衛生大学院で人がより健康で幸せに生きるための方法を学び研究し、パブリックヘルスの博士号を取得した林英恵さんは、自身の著書『健康になる技術大全』(ダイヤモンド社)で感情と健康について、次のように述べています。
❝感情は健康的な習慣作りになる土台になる❞
❝健康的な習慣を作ることは、自分の命を大切にすること。何から始めて良いか分からない人は、健康に良い感情を作りやすくするための器(環境)を作ることから始めてみると良い❞
では、どうすれば健康的な習慣を高めるための感情を作れるのでしょうか?
⬛なぜ、感情が健康に影響するの?
そもそも、なぜ感情が健康に影響するのか。それは、感情が行動を起こすきっかけ、習慣を作るからです。たとえば、怒り、イライラ、不安や緊張を鎮めるために喫煙、お酒に頼る方がいます。その煙草の本数やお酒の量が増え、習慣化していれば当然、身体にも悪影響です。
でも、それが煙草やお酒ではなく、深呼吸やストレッチ、運動であればどうでしょうか。気分転換、リラックスができるうえに健康促進にもつながりますよね。
ところで、ネガティブ、ポジティブな感情と言うと、何となくポジティブな方が良さそうな気がします。ですが、ネガティブな感情もそんなに悪いものではないと私は考えています。
なぜなら、ネガティブ感情のおかげで危険を回避できるからです。
たとえば、海外の煙草の箱に肺が真っ黒の写真を活用しているのは、「肺がんになるのは怖いな」という感情を刺激するためです。
その感情はあなたを病気から守るサインとも言えます。ですので、一概にネガティブ感情が全て悪いとは言えません。
大切なことは自分が抱いた感情に目を向けて、その感情がどういう行動を起こしているのかを見直すことです。
そして、ではどういう感情を持ちたいのか、どんな行動を起こしたいのかを考えることが大事だということです。
そのための効果的な方法がセルフモニタリングです。
セルフモニタリングとは、自分の感情や行動を観察、記録することです。小学校の夏休みの宿題で行ったアサガオの観察日記をイメージしてもらえれば分かりやすいかと思います。
観察する項目は、もちろんアサガオではなく自分の感情、行動です。特に決まったやり方はありませんが、下記に例を出しているので参考にしてみて下さい。
①今日、一番印象に残った出来事は何ですか?
②その時、どんな感情を抱きましたか?
③また、どんな行動を取りましたか?
④その感情や行動はこれからも取りたいですか?
⑤あなたが本当に得たい感情は何ですか?
⑥その感情を得るためにどんな行動をしたらいいですか?
⑦明日の目標は何ですか?
例) ①スーパーの帰り道、昔の職場で嫌い、苦手だった人と偶然出会う。 ②苦手な人なので、心臓がバクバクしてしまい嫌な気持ちになる。 ➂舌打ちをする。 ④全くその必要はない。 ⑤穏やかで清々しい感情を味わいたい。 ⑥読みたかった小説を読む。 ⑦本屋に行く。 |
これはあくまでも例なので、自分なりのオリジナルを考えてみて下さい。
ポイントとしては、箇条書きでオッケーだと言うことです。長文を書こうとすると嫌になりますからね。
大切なことは、自分の感情や行動に目を向けること。そして、自分はどういう感情を持ちたいかを意識することです。
面白いものでこの記録を続けることで、自分の感情や体調変化に気がつきやすくようになり、感情と上手く付き合えるようになります。その気づき、感情があなたの健康習慣を支えてくれますので、ぜひセルフモニタリングを習慣にしてみて下さい。
⬛おわりに
いかがでしたか。一般に健康に良いことと言うと、運動をしよう、食事のバランスに気をつけるといったことが挙がると思います。
もちろん運動や食事、睡眠は大事です。ですが、こうした行動を支える土台となるのが感情です。その感情と上手く付き合うために今回ご紹介したセルフモニタリングが役立ちます。
【参考文献】
『ポジティブな情動を持つ人は2年後も健康 高齢者における健康状態と心理との関わり』(蘭牟田洋美 国際長寿センター)
『健康になる技術大全』(林英恵 ダイヤモンド社)